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Fairground Attraction - First Of A Million Kisses [Artist D-F]

Elliott Erwittの写真を使ったジャケットが本作の雰囲気をよく伝えています。ノスタルジックな50年代のカリフォルニアの写真ですが、小粋な恋人達というモチーフは時代、場所を越えて普遍的です。Robert Doisneauの市役所前のキスもそうですが、恋のメインステージはいつも街の中、自然の中。そんな時に傍らで鳴っている。つかず離れずのちょうどよい距離で鳴っている。Fairground Attractionの音楽を例えるならば、そんな感じでしょうか。

実際、彼らは街角に出て歌うのが好きで、来日したときも、渋谷かどこかの街中で楽しそうに演奏している映像を見た記憶が残っています。彼らの音楽がとても身近に感じられるのは、道行く人たちとのやりとりを楽しむような、さりげないコミュニケーションを大切にしているからでしょう。

Mark Nevinが作る楽曲は、フォーク、ジャズ、ポップスのスタイルを拝借しながら、そんな日常的なさりげなさに合うように、アクを抜き、アコーデオンやウッドベースのアコースティックな味付けで整えられています。Eddi Readerの透明で洗練された声は、多くを語るわけではないのに、しっかり印象を残していく。このバンドの控えめでありながら心に留まるセンスの良さは、ちょうどジャケットの写真の表現にシンクロします。カップルを直接の被写体にせず、車のミラーを通して断片的に切り取ることで、恋の熱気から一歩身を引く落ち着いた感性。サンセットビーチ、車の中の弾む会話など、多面的な情景を見事に一枚の空間の中に収める構成力。ラウンジとかチルアウトなどという言葉が生まれるはるか前に、この人たちは「粋」を極めていたのでした。

こんなにも繊細な感性をもつバンドが、ショービズの荒波の中で、持ちこたえられるはずがありません。本人たちの当惑をよそに、シングルもアルバムも大ヒット。ポップアイドルとして祭り上げられていく中で、彼らはさっさと舞台から降りてしまいます。EddiもMarkもその後も音楽活動を続けますが、本来の等身大でアットホームな雰囲気に戻っていきます。かつての喧騒からずっと時が経ち、特にどこの誰が騒ぐこともなくなった今日あたりが、このアルバムを聞くのにちょうどよい時期なのではないでしょうか。

アルバムタイトルの一節はAllelujaから取られています。
「8時にいつものところでね
 ここから抜け出しましょう
 百万回分の最初のキスをして
 むかしを忘れましょう」
これほど美しいフレーズは他にちょっと思い当たりません。でもそれも特に取り立てて有名にならなくてもいい。このバンドの小さな歴史と、自分の小さな歴史との中で、大切にとっておきたいものだからです。


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コメント 4

しばらくPCを開けずにいたので、またまとめて読ませて頂きました。どの記事も読み応えがあります。Fairground Attractionは、当時友達に借りてダビングして、ほんとによく聴きました。
by (2006-03-06 18:21) 

ezsin

サーバー激重の環境下でありがとうございます。こんな中で毎日更新が続けられるのか心配・・
by ezsin (2006-03-07 00:55) 

鯉三

最近久しぶりにFairground Attractionを聞いたばかりでした。
当時はアコースティックを売りにするバンドが次から次と出てきましたね。かれらの音楽は、古きよきものを彼らの解釈で楽しむという、他のバンドとはちょっと違った洒脱な雰囲気に包まれていました。

ezsinさんのおっしゃるように、今は「本来の等身大でアットホームな雰囲気に戻って」いったんでしょうね。
by 鯉三 (2006-04-08 00:48) 

ezsin

その客観性というか距離が心地よかったですよね。Eddi Readerはソロもピュアですばらしく、ずっとフォローしていたのですが、最近どうしちゃったのでしょうね。究極のアットホームで家庭に入り込んでしまったのかな。
久しぶりに聞いてもいい音楽はいいですよね。
by ezsin (2006-04-08 17:13) 

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