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Radiohead - Kid A [Artist P-R]

この作品の発表以降、世界は変わりました。それまで「すごい」と思われていた音楽はすべて色あせ、Radioheadというバンドは神格化された。おそらくここ10年で、ほんとうに「新しい」といえる音楽は、この作品以外にちょっと思いつかない。Kid Aのすごさを語るときに、いの一番に挙げられるのが、この、今までにまったく聞いたことがない、という新規性です。

例えばキャラクタが新鮮、メッセージや解釈が新鮮というのは数多くありました。ラップ、ヒップホップは、ポピュラー音楽における革命でしたが、ラップは語学力を必要とするという致命的な制約条項が付き、純粋な意味で音楽的ではない。ヒップホップも、楽曲におけるビートの開放という構造変化的な意味合いが強い。対して本作ではジャンル、サウンド、曲構造、テーマの全てにおいて、語るべき言葉が見当たらない。少なくとも筆者には。

ひとついえるのは、この新しさは、ある特定の感情に直結しない、というところからきていること。うれしい、かなしい、あつい、ひややか。どんな感情表現とも合わないし、どんな感情表現をも表すともいえる。おそらく感情から離れたところに独立して存在しえているからこそ、「すごい」と驚嘆するしかないのでしょう。

こんな表現は、人間的なものに直結することで発展してきたロック・ミュージックにとっては画期的なこと。しかし何より大切にしたいのが、そんな大きな進化を直に音楽的体験として実感できたこと。頭でではなく、耳でその新しさを感じることができた。これが何よりもうれしかった。革命を、進化を音楽的な感動としてそのまま享受できること。新しいが故の違和感がありながら、聞いた瞬間に新たなエンタテインメントになりえている。そこがKid Aの持つもう一つの不思議な一面です。

本作に過剰な深読みをすることには、あまり気乗りしません。いろんな解釈ができますし、全曲解説、Radiohead論など既に多くが実際に展開されている。そこに新たな一説を加えようなどというつもりは毛頭ありません。あえて言うことがあるとすれば、極めてパーソナルなレベルでの感覚。実は今に至るまで、正確にこのサウンドを自分の中で位置づけることができていない。聞くたびに圧倒され、感動とも驚嘆ともつかない感覚に支配される。そういう体験をずっと何年も続けてきている。

これは持論ですが、ものすごい映画や小説や音楽など、本当に自分にとって新しいこと、成長の糧となる体験や概念は最初は言葉にならない。ガーンと衝撃だけが全身を支配するだけ。自分にとって新しいことなので、それは言葉にならなくて当たり前。むしろすぐ言葉になるということは、既に自分の中にあるということ。しばらくたって、それは何ヶ月だったり何年だったりしますが、いつの間にかなんとなくそのことが言葉になってくる。そのときにようやく自分のものになったのだ、と実感できる。Kid Aの衝撃の余波は今も続いていて、まだ言葉にできる感情にも概念にもなりきれていないのかもしれません。


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コメント 2

ほんとそうですね。書けないです。
「海辺のカフカ」を読んで以来、「Kid A」と聞くとそれも同時に頭に浮かぶようになりました。
by (2006-05-11 20:54) 

ezsin

村上春樹はビートルズからジャズ、ロックと精通していて、「わかるなあ」と共感することが多いですよね。Radioheadの虚無感はまさに同じ空気。
by ezsin (2006-05-12 00:43) 

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