So-net無料ブログ作成
検索選択

Bruce Springsteen - We Shall Overcome: The Seeger Sessions [Artist S-U]

「The Bossの解毒作業」
青年期にBruce Springsteenを聞いた人にとって、この人の存在の大きさは簡単に語れるものではない。人生の指針から、恋愛の行く末から、人の死から、社会の功罪に至るまで、この世界の全てについての手ほどきをしてもらった。「人生の師」、とはなかなかいえないセリフですが、彼に冠したいと思う人が多いのではないでしょうか。筆者などはまさにそんなひとり。Born To RunやNebraska、Born In The USAなどは、恐れ多くてレビューなどできるものではない。ところがなぜかここ数年間、The Bossの袂を離れ、彼の音楽を聴く機会が減ってしまった。

別に師匠から離れて立派にひとり立ちした、などというつもりはない。ただ何かしっくり来ないものが近年あった。911以降の彼しか作れないThe Risingにしても、壮絶な'75ライブ集にしても、昔だったら気絶するような内容にも関わらず、距離を置いてしまう。

おそらく彼にかける期待の大きさと、彼がそれに応えようと、社会的に大きくなりすぎていることが、ことの本質だという気がする。確かに911は途方もない出来事で、彼しか癒すことができない。しかしそれはそもそも癒されるものなのだろうか。いや、なぜSpringsteenにそんな無謀なことを期待し、なぜまた彼はそれに応えようとするのだろう。社会的な惨めさを歌う中で、政治的な解決手段に至るのは自然な流れ。それだけ言うなら自分でやってみろよ、と声を上げてしまう無責任な私たち民衆の声。そしてそれにも応えようと、政治キャンペーンに出てしまうSpringsteenのリアクション。歯止めが利かなくなってしまった私たちの期待と、歯止めが利かなくなってしまった彼の対応。彼ほどまじめで一途で真剣なアーティストはいない。だからこその悲劇としての今日の状況があるのではないか。これを悲劇と呼ぶかどうかは人それぞれでしょうが。

トラッドな編成のもとでフォークのスタンダードを歌う。政治色からも、人生の悲哀からも無縁。もちろんWe Shall Overcomeといった、とがったナンバーもある。けれども自己主張として、ダイレクトに発信していない。カバーというカムフラージュの中に溶け込んでしまっている。ここは素直に彼の解毒作業とみたい。あらゆる重荷や期待から離れ、音楽を見つめなおす。今一度、純粋に音楽的な衝動を取り戻す。

Springsteenというだけで過剰な期待をかけてしまうわたしたち聞き手にとっても、息をつくときかもしれない。本作が聞き手にどのように響くかは、とても微妙な問題。単なるカントリーではないか。あるいはそうかもしれない。確かに陽気で屈託のない、まるでディズニーランド的牧歌性はくらくらと面喰うほど。素直に音楽的な楽しさに慣れるまでに時間がかかる。それはとりもなおさず、私たちのSpringsteen症候群の根深さを物語っている。

かつてのような熱情的なアーティストと聞き手の関係は、もう永遠に来ないかもしれない。しかし、ここを基点に、新たな音楽の地平に導いて欲しい。どれだけ深遠な人生の悟りを得たときでも、私たちが彼から受けた衝撃の根底には、いつでもたぎるように熱い「音楽」があったのですから。


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:音楽

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この記事のトラックバックURL:
※言及リンクのないトラックバックは受信されません。