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Thom Yorke - The Eraser [Artist V-Z]

30年ぶりにロンドンに来ました。数えてみて驚いたのですが、小さいころ住んでいたときからちょうど30年。これまで一度だけヒースロー空港で乗り継ぎのために寄ったことがありますが、街に来たのは本当にはじめて。パリのシャンゼリゼには何回も訪れているのに不思議。それだけ特別というか、畏れ多いというか、近寄りがたいというか。まあそんな大げさなものではないのですが、とにかくロンドン。

街中を車で走っていて、白いシャツと紺ズボンのいでたちで学校に向かう少年たちを見て、記憶と感情の波が脳のどこか深いところから一気に噴出してきました。

古い屋敷をそのまま使った小さなプライベート・スクール。片足が不自由だったフランス語を教える校長先生が、3階に住んでいた。悪いことをするとその3階に呼ばれて、鞭でお尻をたたかれる罰があった。担任の歴史の先生はとてもやんちゃで、授業をやめてみんなをウィンブルドン・コモンの公園に連れ出したり、テレビでウィンブルドンのテニスを見たりしてた。ビネガーをたっぷりかけて食べるミンチとマッシュポテトの給食。国語の先生のDoctor DoolittleやThe Hobbitの朗読が連れて行ってくれた不思議な世界。今思えばまるで映画のような光景。

Thom Yorkeは本作をソロと呼ぶのを嫌っているそうです。Radioheadなくては自分はありえないのでソロではない、という意味合いと、「ソロ」は全体を意識しての言葉なので、ここではThom Yorkeという別のアーティストして見てほしい、という意味合いがあるのだと思います。まあリスナーにとっては、どうがんばってもRadioheadと彼を切り離せないので、ソロでもソロでなくてもたいした違いはないのですが、それでもとてもパーソナルに聞こえる。もともとこの人の作る音楽はRadioheadであっても一人称的なのですが、ここではさらにこもっている。悪い意味ではありません。この人の音楽のエッセンスをピュアな状態で聞いている気がする。

ファルセットの声とさざなみのようなエレクトロニック・エフェクトは、常に未知の音を探る彼の生き方そのものを映し出す。彼の不器用ながらも新たな地平に向かう求道的な姿勢が、何よりも支持されている理由。そのことを等身大で確認できる貴重な作品なのではないでしょうか。

Stanley Donwoodのジャケットワークはくしくもロンドンの光景。テムズ川を漂う、炎に包まれたランドマークの数々。中世的なタッチで描かれる世紀末感と、それを消し去るように、鎮めるように手を差し出す「Eraser」。彼が示す新しいロンドンとはどんな街なのだろう。

筆者の記憶の中にあるロンドンも、ほとんどが消えかかっている。見かけた少年たちに重ね合わせたフラッシュバックも一瞬のもの。目の前にあるのは石造りの重々しい建物の数々と、広々とした緑の公園の明快なコントラスト。そして2006年、現在進行形の大都会にいる現在進行形の自分。今日はThom Yorkeを聞きながら、新しい街と新しい自分を見つけに出かけてみよう。


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コメント 3

すっかりごぶさたしておりました。ずっと一気読みを繰り返してはいたのですが、いつもすごいなぁと思うばかりで。
小さい頃に住んでいらっしゃったとのこと。なんだか別の次元のような。私は11年前に旅行で行っただけですが、今でも夢のように感じます。CD明日には買おうと思っているので楽しみです。
by (2006-07-14 23:32) 

ezsin

ありそんさん!ご無沙汰です。
コメント聞けなくてずっと寂しかったですよ。
いつでも気兼ねなくどうぞ。
そうですか。11年前なら私より身近ですね・・
夢のような気持ちは変わらないです。
by ezsin (2006-07-15 18:43) 

ezsin

gag_hiyokkoさん、いつもniceありがとうございます。
NMEの丁寧なフォロー、いつも勉強になります。
by ezsin (2006-07-15 18:44) 

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