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My Bloody Valentine - Loveless [Artist M-O]


ここだけはどうしても行きたかったところ、ロンドンのTate Modernに行きました。2000年にオープン。パリと比べると、文化的なリニューアルに関しては、思い切りのよさにおいても斬新さにおいても、はっきり言ってロンドンは負けている、と思っていました。どうしても保守的な傾向が拭い去れない。とてもポンピドー・センターや、ルーブルのガラスのピラミッドを作る度胸はないだろうなあ、イギリス人には、と思っていた。Tateも見た感じは古い建物そのままでしたが、そんな外見だけにとらわれることの意味のなさを、いやというほど思い知らされた。圧倒的な内容に完全に参ってしまいました。

現代美術は、そんなに熱心な方ではないですが、きらいではない。どちらかというと目の付け所の新しさを楽しむ感じで接してきましたが、今日は違った。作品のパワーと今日的なメッセージが体の髄を揺さぶり、震えるほど感動した。どのアーティストのどの作品と個別に挙げるつもりはありませんが、今この瞬間における美術のありかたを真剣に提示しようとするTateの強烈な精神が、全館を支配していた。自分の好みからいって敏感に反応するはずの1960年ごろまでの作品が、まるで色あせて感じられたのがとても印象深かった。

Tateを後にして、テムズ川のほとりを歩きながら考えた。ポピュラー・ミュージックにも力と意義がある。新しい文化を切り開き、私たちの意識領域を広げてきた。ではTateのあの広々とした空間で鳴らすべき象徴的な作品は何だろう。一過性のものではなく、どこか記念碑的な作品は何だろう。そして真っ先に本作が浮かんだ。

長い前置きになってしまいましたが、発表から16年間、この音の囚われの身になってきて、今日ようやく落ち着くべきところが見つかった気がした。音楽の枠を超えて、現代人の文化遺産的重要性を体現する作品。少々大げさですが、それくらいの規模で語ってもいい作品なのではないでしょうか。

考えてみれば、ここ百年の美術史を飾ってきたムーブメントを、ほとんど内包している。めまいがするほどの幻惑的なギターが織り成すシュールレアリズムな世界。ループ化されたリフとリズムが刻むミニマリズムな表現スタイル。大量生産・大量消費されるポップ性。奔放に放たれた音がランダムに交じり合う偶然性。そして現代のストリート感覚やカルチャーミックス感覚に通じる力強いグルーヴ。簡単に語れない複合的な要素が渾然一体となって、マグマのようなエネルギーの塊になったもの。Lovelessとはそういう作品なのです。

よく知られているように、この作品を最後にKevin Shieldsはちゃんとした作品を発表していません。断片的にはいろいろなことをやっていますが、はっきりとした形でPost Lovelessはこれ、というものを出していない。ファンはいまだに続編を待ち望んでいるし、シーンはいまだにこの作品から影響を受け続けている。しかし、そんなものはもう必要ないのかもしれない。この作品が果たすべき役割は果たしてしまったし、まだ何かがいるとすれば、さらに時代を進化させる、新たな次元の作品なのですから。それはLovelessとは似ても似つかぬ音のはずです。

Tate Modernの懐のすごさは、膨大な作品のほぼ全てに付けられている解説文。難解な作品の見所を、わかりやすく、面白く、簡潔にまとめてある。なるべく解説ではなく、作品を見るように心がけるのですが、迷ったときに眺めると、その疑問を待ち構えていたかのように解き明かしてくれて、思わず「ありがとう」と声を上げそうになってしまう。美術館に、小さな子供がたくさんいることにも感心する。いつの時代でも、アートは、無邪気な子供の気を引くものでありたい。そんな願いが実現されている場でもある。

体の内部を思わせる、あたたかく原始的な赤~ピンクのアブストラクトな空間。その中をLovelessの音響が、羊水のように満たす。筆者の描くMy Bloody Valentineの展示室のイメージ。そこにTateの学芸員はどんな粋な文章を掲げるでしょう。また、子供たちは、どんな顔をしてその部屋に入っていくのでしょう。想像するだけで楽しくなります。


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コメント 4

タイトルを見ただけで、胃をワシ掴みにされるような、心拍数が高まるような。(けっして大げさに言っているのではありません)
ルーブルというと、ガイドもなしに友達とひたすら時間のある限りぐるぐるして、一番印象に残っているのはあこがれのニケ。
イギリスでも定番の大英博物館や、文学系の資料館等色々行きましたが、Tate Modernには行ってません。うらやましいです。HP少し見てみました。
きっと「Loveless」をテーマにこういう風に語れるのは、世界にただ一人なのではないでしょうか。何度でも読み返してしまいます。
by (2006-07-15 23:38) 

gag_hiyokko

今回の文章もとても腑に落ちました。
ezsinさんの文章を読んでいると、ときどき「あ、そうか。これはこういうことだったのか」と感じさせられることがあります。
これからも楽しく読ませていただきます♪
by gag_hiyokko (2006-07-16 21:40) 

ezsin

ありそんさん:
やっとMBV書けました。
ルーブルのニケ。広い踊り場に堂々と置いてあって感動しますよね。今も時代の舳先で風を受けている感じ。
ロンドンで文学系の資料館巡りとはまた粋ですね。お目当ては誰だったのでしょう?シェークスピア、ワーズワース、エリオット、ジョイス・・
大英図書館もとてもかっこいいところですよね。

Tateは3ポンドの寄付を呼びかけているものの、基本的には無料。すごい太っ腹。30ポンドぐらい寄付したくなってしまいます(実際は5ポンド・・)。財政的には苦しいのでしょうが、市民にのんびりしてもらうために、街のど真ん中に広大なParkに土地を割いていて、本当にエライ。日本だったら間違いなく商業施設か、高級マンションを作っちゃうはず。その方が儲かるのに、と考える東京の感覚とは隔世の感。
by ezsin (2006-07-16 22:19) 

ezsin

gag_hiyokkoさん:
ありがとうございます。実は自分でも、何だかもやもやしているものを、はっきりさせたいと思いながら書いています。余計混乱しちゃうこともあるのですけど・・
がんばって続けていきたいと思います。
by ezsin (2006-07-16 22:22) 

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