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The Eagles - Hotel California [Artist D-F]

本当にバラバラのアルバム。突然啓示を受けて豹変したDon Henleyの楽曲に誰もついていけていない。どかどかと参加してきた新米メンバーと、昔からの住人とは明らかに水と油。穏やかなコーラスワークを大切にしてきた人たちと、ギターをブリブリ鳴らすならず者。全体の整合性がまるでない。何しろ4人もリードボーカルを取っている。Glen FreyはHotel CaliforniaのあとをついでNew Kid In Townを歌うが、そのほのぼの感はDon Henleyの感性とあまりに落差がある。ならず者のJoe WalshがかえってバラードのPretty Maids All In A Rowを歌うから、ますます混乱する。このアルバムを最後に脱退することになる、もっとも「原始」Eaglesを体現するRandy Meisnerは、戸惑いを隠せない中、8番バッター(8曲目)という瀬戸際へ追いやられてしまっている。ここでは、バンドの統一感はほとんど崩壊してしまっている。

Don Henleyは次作、The Long Runで大統合を試みますが、モノトーンのジャケットが象徴するように、丸く収まったものの、平坦で均質ではっきりいって面白くない作品になってしまった。Eaglesの混乱と絶頂は、間違いなく本作でピークを迎えているのです。

本作は、Hotel CaliforniaとThe Last Resortという2曲で、入口と出口がふさがれている。華やかな浮世の裏にある毒々しい人間の本質を鮮やかに暴き、私たちの日常を否定して幕を開けるHotel California。そんな醜い現世の救いとしてのキリスト教的価値観と、その象徴である「天国」をも、幻想として打ち砕いて幕を閉じるThe Last Resort。二つの大きな「否定」の間にひしめいているのが、先にあげた混乱を極めるこのバンドの7つの楽曲群。「Hotel California」というアルバム・タイトルが完璧に説明するように、ここに集う7つの曲は、そのままホテルに居合わせる様々な宿泊客の投影です。新婚夫婦がいれば、自殺をしようとする作家がいる。家族団らんがあれば、麻薬取引もある。ホテルの中はそのまま人生のショーケース。Try And Love Againとささやく曲があれば、Victim Of Loveと厳しく断罪する曲がある。New Kid In Townをやさしく眺める視線があれば、Life In The Fast Laneを凝視する血走った視線がある。交わることのない複数の生活。ひとつの論理で説明することのできない相矛盾する人間の営み。その生々しさが、この7曲から激しすぎるほど伝わってくる。

本作が傑作になっているのは、バンドの混乱そのものが、作品のテーマの構成要素になっているからです。自分達の制御を超えたところで、もがき苦しんでいるさまがそのまま封じ込められている。圧倒的なリアリティを持っているのは、そのためです。このアルバムは、Eaglesが作ったのではなく、もっと大きなものがEaglesという存在をひっくるめて作りあげてしまったものなのです。

その全体像が見えてきたとき、入口と出口の二つの曲が、「否定」から「覚醒」へと変わります。たいそうなもののような自分達が、実は偽善者である、というあるがままの姿を見せ付けられた。Hotel Californiaに心底打ちのめされたとき、悟りの第一歩を踏み出すのだと思います。

それにしてもThe Last Resortはすごい。「最後の砦」であり、「最後の楽園」でもある。ラストの荘厳なシンセの調べは、筆者の中では、そのままJoy DivisionのCloserに流れていき、Ian Curtisの自殺へと繋がっていきます。本作が産み落としてしまった大きな絶望感は、その後の80年代を覆い尽くした。Eagles自身もそれを引き継げなかった。ロックが再び力を取り戻し、ポジティブな歩みを始めるまで、長い期間を要したのです。


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コメント 4

鯉三

EaglesにもHotel Californにも特に思い入れがないのですが、ezsinさんの力のこもった論考にnice!を入れました。「ホテルに居合わせる様々な宿泊客の投影」...タランティーノ監督らのオムニバス映画『Four Rooms』を思い出しましたが、そういうコミカルさとは無縁のアルバムですね。
by 鯉三 (2006-07-27 00:58) 

gag_hiyokko

「ホテル・カリフォルニア」は普通に良質なポップ・アルバムとしてフリートウッド・マックの「噂」などとともにずっとiTunesに入っていて、なぜか思い出したようにときどき聴いていました。しかも自分で持っているCDではなく、珍しくCDレンタルで借りて取り込んだものです。
「スピリットは60年代から売り切れだよ」というような歌詞は有名ですが、あまり内容を気にして聴いたことはありませんでした。
うーむ。これはなんか聴き方が変わりそうですよ。なにか気にかかるアルバムではあったのですがね。このアルバムに漂うある種の暗さとは、そういうことだったのか...とか。
ジョイ・ディヴィジョンに繋げていく文章も初めて見て、目からウロコです。いや、本当に今回も良いものを読ませていただきました。
by gag_hiyokko (2006-07-28 00:21) 

ezsin

鯉三さん:
オムニバスの感じはしますよね。コミカル含めて人生いろいろ。Joe Walshは結構ユーモアのセンスあるんですけどね。

しかし今回は、思わず力んでしまいました。Eaglesは、中学生のときに、始めて「一番好きなバンド」と思えたバンドなんですよ。そのときはHotel Californiaの意味なんてぜんぜんわからなかった。けだものをグサグサ刺し殺す、という歌詞がかなり怖かった。

おまけにクリスチャンの家庭で育ったので、The Last Resortのキリスト教否定が、すごくショッキングで、悩ましかった。せっかく好きになったバンドが、今まで教えられてきた考えを否定している-。自分の中でいろんなことにけりがついたのは、ずいぶん経ってからでした。本作がいろいろな意味で目を開かせてくれた。そんなことも背景にあるんですが、たぶん西洋社会におけるこの作品の衝撃に、かなり近い反応なんじゃないかなと思っているんですけど。
by ezsin (2006-07-29 11:22) 

ezsin

gag_hiyokkoさん:
ありがとうございます。「Spirit」含めて名言の多い作品ですよね。「いつでもチェックアウトできるけど、立ち去れないよ」というのが、ずーっとこびりついてます。きっとこのアルバムのことを差しているのかも。

この作品のもうひとつすごいところは、おっしゃるように、ヘビーな内容にもかかわらず、第一級のポップロック作品に仕上がっていることですね。奥まったところの苦悩を意識することなく、純粋にポップとして楽しめる。このことが、実はもうひとつの悲劇を生んじゃったとも取れます。社会性に満ちた重厚なテーマと、音楽としてのポピュラリティーを維持すること。この相反する使命を、Hotel Californiaの途方もない成功によって、Eaglesは引き受けざるを得なくなってしまった。The Long Runは、そんな両立と、メンバーの一体化という重い作業に取り組んでいる作品でした。

今から思えば、世間はかなり気まぐれで、そんな高度なものを求めてばかりいるわけではないので、もっと気楽にやっててもよかったと思いますけどね。自分の解釈では、この呪縛から逃れられたのは、90年ごろのマッドチェスターやレイブなどの「音」としての新しいパワーを取り戻した時です。

いずれにしても2006年的には、Hotel Californiaは、完璧にポップとして聞くのが正解ですよね。12弦ギターの旋律は、純粋に音楽的に輝いているのですから。

いやいやこの作品、語りだすと止まらないです~
by ezsin (2006-07-29 11:22) 

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