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Amos Lee - Supply And Demand [Artist J-L]

やはり一度は書いておかないといけない。
筆者は2001年6月までアメリカにいました。ビジネススクールに留学していて、6月の修了とともに日本に帰ってきたのですが、同期生の多くがニューヨークのウォール街に就職しました。9月は、新しい職場でのスタートの時期に重なっていて、9月11日の事件に巻き込まれた人がかなりいました。事件直後から、さまざまな情報が学校関係者間でやりとりされました。同期生の少なくとも2名が行方不明になったこと。ひとりは、どれかの飛行に乗っていたらしいこと。安否の確認は電話ではできないので、学校の掲示板で行うように電子メールがいっせいに配信されたこと。筆者も知り合いの同期生に次々にメールを送って、「I'm OK. Let's all pray」の返信を受けるたびに涙が出そうになりました。事件のことを考えるだけで涙が出そうになりました。理由は良くわかりません。ただ泣きそうになった。

同期の日本人2人も、その日ニューヨークにいました。ひとりは出張で滞在していて、遠く離れたレストランの店先からWTCを眺めていたのだという。もうひとりは、WTCの隣のビルで新人研修を受けていて、事件とともにいっせいに避難させられたとのことでした。その友人が、階段を下りていきながら窓越しに見えたWTCから、「パラパラと」人が落ちていくのが見えた、と後で再会したときに語ってくれました。この「パラパラと」という言葉が、この日の悪夢とともに頭にこびりついて離れません。

以上が筆者と911とのかかわりのすべてです。深いかかわりではないかもしれない。あとは呆然と日本でテレビを見つめていたのは、世界中のほとんどの人と同じです。そして世界中のほとんどの人と同じように、底知れぬ恐怖に怯えていました。たぶん恐怖の原因はふたつ。ひとつは世界の誰もこの恐怖から逃げられない、という事実に対して。もうひとつは、「パラパラと」に集約されること。すなわち、私たちのこの大切な人生や命が、まるでふりかけをまぶすようにパラパラとあっけなく消えてしまう不条理に対して。それ以来、筆者はパラパラと散ってもいい人生と折り合いをつけるように生きてきたように思います。

Amos Leeの新譜です。今日は極力911と関係ないものを選ぼうと思っていました。いや正確に言うと、関係ないようで関係するものを選ぼうと思っていました。Supply And Demandは直接的には911となんら関係ありません。本人もこんな文章の流れで出てきたことを知ったら快く思わないでしょう。でもあえてこの作品にこだわりたい。

フィラデルフィア出身のフォーク/ロック・シンガーですが、ソウル/ゴスペルの心を持っている。Simon & Garfunkelもある。歌の内容はダウンタウンの生活から南部の女性まで。つまりアメリカン・ミュージックそのものをやっている。ああアメリカの音楽っていいな、と思えるサウンド。しかも屈託なく、ストレートな美しさとポップさに満ちている。何回も何回も聞きたくなるすばらしい作品。そして何回も何回も聞いている中で、なぜか泣きたくなってくる作品でもある。とてもポップで明るいのだけれども、なぜか哀しい。ほとんど意識しないけれども、無意識に作用するメランコリー。

911の事後処理をどのようにしていくかはとても難しい。原爆のように過ちを繰り返さないために自戒の意味をこめてリメンバーするのがいいのか。過ちを犯した感覚はないので、悲劇を記憶にとどめるだけでいいのか。よくわかりません。ただ筆者は、記憶するよりも、「消化したい」と思う。思い出す努力をしなくても、自然に自分の意識の一部になってしまうようにありたい。それが無意識のメランコリーなのではないかと思う。Amos Leeのアメリカン・ミュージックは、彼が意識しようがしまいが、ポスト911として、無意識のメランコリーを抱えている。ゴスペルの祈りは深化しているし、ダウンタウンの生活もぐっと切実なものになっている。ただ電車に乗って帰るだけの生活も「パラパラと」人が死んでいく世界を垣間見た後では、意味合いが違ってくる。だからSupply And Demandは関係ないようで、911の後を受け継ぐ正しいサウンドだと思うのです。

前向きにありたいと思う。政治的、人道的なオピニオンを言う気にはなりませんし、亡くなった人々をいくら追悼したところで足りるものではありません。ただポスト911を生きる人間として、それ以前とは違う生き方をしなければと思う。パラパラはパラパラなりに、何かの意味を持っていたいと思う。Amos Leeの美しくも哀しい音楽を前向きに捉えて、明日を迎えることがその第一歩なのかもしれません。


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コメント 2

なんらかの形で、触れられるのではないかなと漠然と思っていました。同期生の方達が、との事ですから大変な思いをされた事でしょう。明日の事は分からないなら、もっとちゃんと日々を過ごさねばと思いますが、つい惰性で。試聴した後、CDのCMを見る度に欲しいなぁ~と思っています。
by (2006-09-16 02:08) 

ezsin

惰性で生きてしまう毎日ですね。音楽はそんな自分に喝を入れてくれるものかもしれません。Amos Leeは元気付けてくれるとともに、どこかしんみりもさせてくれて、日に日に秋の気配が深まる今の時期にぴったりです。

911は書く資格ないなあと思いつつ、自分の心の整理のつもりで書いてみました。どんな事件でもそうですけど、当事者と傍観者の温度差の前でたじろいでしまいます。たぶん、それぞれがそれぞれの感受性で捉えればいいのでしょうけど、難しいですね。
by ezsin (2006-09-16 07:53) 

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