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The Mary Onettes - Lost EP [Artist M-O]

実家に帰ってあたりを見回すと、昔のものがそのまま置いてある。はじめて父に「選んでこい」といわれて買ってきたカセットデッキ。オーディオ好きの父が、なぜ何も知らない生意気盛りの子供にそんな大事なものを選ばせたのか。最新のHDD-DVDの上に、今も乗っているその古い機械を見て、少しわかった気がした。そのほかに、角が擦り切れて色あせた小倉百人一首の箱。ふたを開けると、家族で爆笑のネタだった蝉丸の札が一番上に乗っていた。箱と違って札は意外なほどきれいなまま。きっとあの時以来、誰も使っていないのだろう。

別に感傷に浸ろうとしているわけではありません。両親は健在ですし、正月は家族で集まって普通に談笑する。たぶん違うのは、あの頃と比べてずいぶん年をとったこと。時間とともにものの見方がぐっと深まったこと。

The Mary Onettesはスウェーデンのネオアコ・バンド。いきなりIan McCullochの声で、New Orderのシンセに乗って、Simple Mindsの情緒メロディが流れる。大手レーベルとの契約が短期間で切れ、Labradorから再出発。まだEP2枚しか出していない。Labradorの説明で、「ウチのレーベルでいちばんアリーナ・ロックに近いバンド!」と持ち上げられている。確かに、いまが1983年だったなら間違いなく・・。

80年代、90年代に音楽にどっぷりだった人間からすると、昨今のリバイバルはとても複雑な気分。サウンド的には抗し難いものがあってだいたい降伏してしまうのですが、それでも、「これでいいのだろうか」といつも自問してしまう。だってもう2007年だよ。懐古趣味で生きていくには、いくらなんでもまだみんな若すぎでしょ?

古いカセットデッキを眺めながら改めてシングルLostを聞いていると、ずいぶんと落ち着いてきた。確かに古いけれども、今の目で見るカセットデッキは昔と違う意味を持っている。機械的でボタンがいくつもあってごつごつしている。けれどメカを制御する安心感があった。HDD-DVDデッキがずっとWAITと表示されたまま動かないでいる間に何が起きているかわからない不安を感じなくて済んだ。カセットテープは扱いづらくて音も悪かった。けれど決してつかまえられない「本当の美しい音」を追い求めるロマンがあった。あっさりとサンプリングレート44.1kHzのCDを自宅でパカパカ量産できてしまうようなことはなかった。音ははかなくて、もっと貴重なものだったのです。

The Mary Onettesたちが求めているのも、きっとこれに違いない。利便性の影で失われてしまった、もっと大切にしたくなる音。消えてしまうことが惜しくなる、鳴っている間だけの幸福。彼らが80年代、90年代に見ているのは、そんな刹那的美意識。単に再現するだけでなく、今の時代に欠けている潤いとして取り戻そうとしているのだと思います。

そんなLostをmp3にして、iPodで簡単に聞いているのはちょっと矛盾しているように見えるかもしれない。しかし彼らのサウンドの余韻として残るのは、かつて感じた、あの逃げていくような切なさ。これだけはテクノロジーで追いかけることはできないのです。


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