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Sting - Songs From The Labyrinth [Artist S-U]

16世紀の作曲家の歌曲を、現代屈指のポップアーティストが歌う。この設定がどうにもしっくりこなくて、なかなか食指が動かなかった。何となくいやな予感がして、意識的に避けていたところもある。今度はいったい何をやらかしてくれたんだろう・・

聞いてみてとてもすっきりした。そうか、そういうことだったんだ。

クラシックの演奏家は、自身が持つ高度なテクニックを駆使して、作曲者の意図を表現していきます。そこに演奏家の自我を丸出しにすることはありません。個性がないわけではない。作曲者の意図の解釈の仕方、表現のうまさ、感動の伝達の仕方など、精密にコントロールされた、非常に洗練された方法で自身の存在感を伝えていきます。もっと簡単にいうと、とても間接的な自己表現です。

Stingの本作でのアプローチはまるで違います。息遣いまで聞こえる至近距離の録音は、生身の人間が歌っていることをことさらに強調している。では、「わあ、Stingだ」という個性がギラギラしているかといえば、そうではありません。まるで16世紀のJohn Dowlandその人が目の前で歌っているかのような錯覚を覚えてしまいます。作曲家になりきった迫真性は、まるで憑依した巫女を見ているようです。

一方で、リュートの演奏は、遠い中世の世界そのものを想起させます。その瞬間、今度は現代のポップスターが、チューダー王朝時代にタイムスリップして民の前でコンサートを開いている風景が面前に広がる。確かに歌っているのはSting。でもMadison Square Gardenにいるわけではない。曲も今の時代のものではない。あれ?どこにいっちゃったの?

いわば自身の個性を直接的に使って、400年前と現代とをパイプで直結させてしまう。その双方を自由に行き来しながら、全く新しい表現の場を作り出す。本作を聞いてくらくらするような目眩を覚えるのは、ここに時空のゆがみがあるからです。

Stingはめちゃくちゃ我の強いアーティストです。常に「Sting」という主体は何かを、ジャズ、バンドセッション、ストーリーテリング、コンテンポラリーアートなど様々な表現形態の中で模索してきた。本作は「400年の時間軸」をテーマに、そこに「Sting」がどう投影されるかを追求している作品なのです。

彼がこれらの古い作品を発見したときの心のときめきがよくわかります。世俗的で素朴な愛や喜びを歌った心情が、時空を超えていることを直感的に感じたのでしょう。よし、John Dowlandを現代に連れてこよう、Stingを400年前に連れて行こう。そう思ったに違いありません。

これはStingが作り出した「時間を越えるどこでもドア」。ドアの先にあるのは、彼が一人二役を演じる不思議なLabyrinth(迷宮)。


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