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Joy Division - Unknown Pleasures [Artist J-L]

20数年前のバレンタイン・デーの記憶。当時、AMラジオで時々聞く番組がありました。時々しか聞けないのは、天気のいいときしか電波が受信できなかったからです。雑音の中から途切れ途切れに聞こえてくる真夜中の妖しい番組。どうも九州方面のラジオ局だったようですが、詳しいことはまるでわからない。

それはインディーやマイナーな洋楽を流す番組でした。陽気な男の人のDJで、Einsturzende NeubautenやHenry Cowなどがシュールに流れる。ちょっとありえない。まるで共産圏にいて、自由世界の電波をこっそりと受信している気分でした。

それはある2月14日の放送。「バレンタイン・デーのカップルの皆さんにささげます」と明るく紹介されたのが、Joy DivisionのShe's Lost Control。しかも音源未発表のBBCライブ・バージョン。ザーザーと唸るノイズの中から、うめき声のように聞こえてきたIan Curtisの暗い声は、バレンタインの夜の色を強烈に塗り替えてしまいました。

いまだにそのときの印象が頭にこびりついています。当時、既にIanは帰らない人になっており、Stillを含めた3枚のアルバムは、多感な若者にとっては神聖なものでした。Joy Divisionとは、黄泉の国から不思議な電波に乗って届けられる、神秘的な啓示だったのです。

彼らは、ポストパンク期にカラカラに乾いたモノクロームの音を極めたバンドです。湿り気のないギター。ぱさぱさのドラムに、表情のないハイトーンのベース。そしてすべてを白と黒の無彩色に脱色してしまうIan Curtisの魔の声。彼らのサウンドは、感情を無の状態にリセットしてしまいます。

例えば「死」。あるいはどろどろとした深層心理。目を背けたくなる部分に向き合おうとするとき、人は混乱します。過度の刺激に、受容器官の容量が持ちこたえられない。思考が錯綜し、精神が動揺し、安定を保てない。そんなときのためにUnknown Pleasuresが存在します。

本作を聞くと、恐怖が恐怖でなくなる。感覚を超えた理性が生まれる。それはまるで体に刺した針の傷みを感じることなく、皮膚にめり込んでいく金属をじっと観察できる状態。She's Lost Control。正気を失った彼女を眺める。感情を凍結しない限りはこの痛々しい現実を直視することはできません。

徹底的にモノクロームの無感覚を研ぎ澄まし、その先に横たわる人間を描写しようとしたのがJoy Divisionです。今でもここに立ち帰るときがあります。それは絶望からでも希望からでもありません。むしろその両方から解放されるために聞く。答えのない答えを掴むために、ここで全てをリセットするのです。


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そのような番組があったとは、全然知りませんでした。聴いてみたかったなぁと思いました。昔は、ラジオこそ貴重な音が聴ける、というイメージがありました。
by (2007-02-18 23:06) 

ezsin

ライブ録音などラジオでしか聴けない音源がありましたね。インタビューなども必死になって聞いたものです。思えばそれしか情報源ありませんでしたものね。
by ezsin (2007-02-19 00:13) 

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