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Patti Smith - Horses [Artist S-U]

「羽衣伝説」というものがあります。
天から舞い降りた白鳥が森の中の湖で水浴びをしているところを男に盗み見される。
天に帰るための羽衣を取り上げられた天女は、男に恋をし、紆余曲折を経てやがては天にかえっていく物語。

「キリストは誰かの罪のために死んだけれども、わたしのためではないわ」。
有名な歌いだしで始まる本作は、天をあきらめた天女の視点。
Robert Mapplethorpeの手になる完璧なポートレート
肩にかけた黒のジャケットは、彼女を駆けさせる羽衣。黒のサングラスと黒のジャケットをまとった彼女は、誰にも束縛されることなく意識の羽を広げる。

聖と邪と、精神と肉体。思考の振幅の両端を自在に駆け巡る。
ここで発せられる彼女の言葉と意識の趣く先を追っていくのはもはや不可能。
ロックの衝動が、これほど深く、突き刺すようにわたしたちのあり方、強いては存在まで問い詰めることができることに驚愕するばかり。

彼女が吐露したものとは何だったのだろう。
肉体と精神の鎖にがんじがらめに縛り付けられた、どうしようもなく不自由なわたしたち。
開放されることなく、救われることのないわたしたちの病。
ギシギシと大きな音を立ててわたしたちの精神を圧迫するひずみを、そのまま生き続けるためのエネルギーに変換する。

「Gloria(栄光)」の後光が色あせ、わたしたちの手からすり抜けていこうとしても、「G・L・O・R・I・A」という新たな力として蘇らせる。
走る肉体的な力が尽きていく中、Horses、Horses、Horsesと連呼することで、心の脚力をブーストしていく。彼女自身が必死になってつかもうとしたやるせなさの克服。ロックンロールの中に見るはかなくも切実な希望。

30年以上経っても彼女は羽衣を取り戻していない。
2005年のレガシーライブで彼女は変わらずHorsesの世界を同じテンションで吐露し続けていた。
彼女から羽衣を剥ぎ取ってしまったわたしたちもまた、地上を這いつくばっている。
言うまでもなく、そんな羽衣なんて最初から存在しない。
ロックンロールの夢は、わたしたちのこんな現実の真っ只中にあるのですから。


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pushol

ついこないだ初めて聞いたのですが、Pattiほどに度肝を抜かれた女性シンガーはいないですね。
絶望と希望を圧倒的なロックで歌い上げる姿は何ともいえません。
You Tubeで最近のライブを見ましたが、全然変わってないですし。
ちなみにThe Who好きとしては『My Generation』がたまりません。
by pushol (2007-04-10 01:00) 

ezsin

本当に稀有なシンガーですよね。
激しさの中にある悲しさをごくごく自然に表現できてしまう。
Who好きもわたしもMy Generation最高です!
2005年のライブ録音は今でも鳥肌モノ。
by ezsin (2007-04-10 22:21) 

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