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Paul Weller - As Is Now [Artist V-Z]

ずっと前の話ですが、アメリカに留学していたことがあります。
本格的に授業が始まる前に、サマースクールというものに行きました。これは主に外国からの留学生を対象に、英語の補講や、アメリカの大学での授業の仕組みなどを教える予備校のようなものです。

北西部にあるDuluthという街の、小さな大学のサマースクールに参加しました。ちなみにDuluthというのはBob Dylanの生まれ故郷。スペリオール湖に面したきれいな街ですが、本当に何もない小さな街です。

ここに10名弱の日本人学生が集まっていました。サマースクールが終わればそれぞれアメリカの各地に散っていく、みんな不安に駆られた面持ちの若者たちばかり。

最初はまじめに授業を受けていたものの、だんだん気が抜けて、毎晩酒を飲み、ラフティングに出かけたり、パーティで悪ふざけをしたりした。学生寮みたいなところで生活しながら、「青春やり直し」みたいな感じでした。

そんなわたしたちに混じって、Tさんというひとりのおじさんがコースを受けていました。歳はもう60を超えている。奥さんと二人で大学のアパートを借りて参加していました。アホなわたしたちと歩調を合わせながら、一緒にゲームみたいな英語の授業を受けていました。若者グループでも最年長のわたしは、とても気になってときどき話をしていました。これからボストンのビジネススクールに行くのだと話してくれました。どうしてその歳になって留学しようと思ったのだろう?

当時のDuluthは、日本食はおろか、中華料理屋もありませんでした。1ヶ月近くのコースの半ばで、さすがにみんなアメリカの食生活にがまんならなくなってきた。パン、肉、ポテト、チーズ。毎日毎日、ピザ、ハンバーガー、硬いステーキ、豆スープ。胃袋が硬く変質していく感じ。真剣に食べ物を受け付けなくなってくるものも出てきました。

そんなわたしたちを見かねて、Tさんが、みんなを自分のアパートに招待してくれました。アメリカでの生活経験のあるそのご夫婦は、サマースクールに来る前にカリフォルニアに立ち寄り、お米や日本食材を買い込んできていたのでした。奥さんが用意してくれた料理の数々。ほかほかの白いご飯、味噌汁、肉じゃが、ひじきの和え物。みんなで涙を流しました。日本食のありがたさをあれほど強く感じたことはありません。

感動の食事の余韻に浸りながら、ソファに座ってTさんと話をしました。
鉄鋼関係の商社の仕事をしてきたこと。3年ぐらい留学にチャレンジしてきたこと。途中で大きな病気をしてしまい、1年くらい中断してしまったこと。留学後はコンサルタント業を始めたいと思っていること。

留学はずっと昔からしたかったのだそうです。子供も自立し、仕事もちゃんと勤め終えて、ようやく実現できるところまで来たとのことでした。
わたしは思わず聞きました。
「そこまでTさんを突き動かすものは、何なのですか?」
Tさんは照れくさそうにしながら、小さな声で答えてくれました。
「これは僕のロマン、ですね」

その後、サマースクールも終わり、本来行くことになっていた大学に移って、2年間の留学期間を過ごしましたが、ずっとこの言葉が頭の中にありました。いろいろ勉強しましたし、かけがえのない体験もたくさんしました。何のために留学しているかの明確な目的を持っていましたし、それが達成された充実感もありました。帰ってからの仕事への自信もつきました。

でも何かが欠けていることは、ずっと感じていました。
成功という名の階段を駆け上ろうとしている自分を、醒めた目で見つめる別の自分がありました。Tさんがあんなに生き生きと求めていたものを、ついぞつかむことがなかったのです。

Paul Wellerは、自分に欠けていたものを持っています。逆にTさんが持っていたものを持っています。

「As Is Now」。いつでもその情熱みたいなものを持って、現在形で音楽を作っている。確信に満ちた音。進化を続けながら、深みも増していく。個々の楽曲を聞く以前に、その心意気に感動してしまう。彼はずっとロマンを追い求めているのです。

その夏のDuluthの生活は、今では夢のように感じます。
淡い初夏の日差しが降り注ぐ校内の小道を、Tさんが奥さんと二人で散歩する風景ともども、映画のシーンのように触ることのできないところに行ってしまいました。

Paul Wellerを聞きながら、今でもふと考えます。ずっと年老いた自分は、いったい何をしているのだろう。そのときに自分を見つめる子供たちは聞いてくれるだろうか。
「ねえ、何でそんなにがんばっているの?」
そのときに果たして答えられことができるだろうか
「これはわたしの・・」


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コメント 6

Tさんとの交流のエピソード、すごく共感しました。
私も社会人大学院やMBAに憧れて柄にもなく調べたり、ちょっと勉強したりしたこともありましたが、結局実現しないままの日常が続いています。
ポールウェラー、大好きなロッカーです。同じように、リアルなサウンドをスタイルカウンシル以降も一貫して追求していますね。理想形の大人イメージです。
by (2007-05-17 22:28) 

今回の記事を読んでいるうちに、なぜだか急に涙が出てきました。私には、ロマンと呼べるほどのものではありませんが、平凡な夢があります。それを実現させるために、ちょっと大変でしたがお引越しをしました。できればここ数年のうちに叶えたいと思っているのですが、、、。
Paul Wellerは、音楽はもちろんですが、その存在自体が永遠の憧れです。
by (2007-05-18 00:21) 

ezsin

ayumusicさん、Paul Wellerを聞いていると、いつでも理想を追求する姿勢の大切さを教えられます。それがなかなかできない自分の未熟さを、大きく見守ってくれるのもまたPaulのすばらしいところなのかもしれません。
by ezsin (2007-05-18 18:05) 

ezsin

ありそんさん、夢に大きいも小さいもありません。ありそんさんの夢が叶うことを、心からお祈りしています。
Paul Wellerは唯一無二。こういう人は世界中探してもいません。いてくれるだけでわたしたちの心を支えてくれている気がします。
by ezsin (2007-05-18 18:09) 

鯉三

ずいぶん前に拝読していたのに、何も残していませんでした。
それくらい、感動したのだと思います。いいお話です。
by 鯉三 (2007-06-04 02:53) 

ezsin

鯉三さん、ありがとうございます。いまTさんはどうしているだろうと最近そればかり考えています。知りたいような、知りたくないような、微妙な感じです。
by ezsin (2007-06-05 05:43) 

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