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Jonathan Krisp - No Horse No Wife No Moustache [Artist J-L]

水琴窟」をご存知ですか?
地面に穴を掘って瓶を埋め、地上の小さな穴から水滴を垂らして、瓶の中で反響する音を楽しむ、日本古来の粋な庭仕掛けです。

水が金属に触れる瞬間のなんということのない音に、尋常でないこだわりを持ち、微妙な音色の変化を、日常とはまったく違う意味合いの中で捉えて鑑賞する。この奇妙な水琴窟を通して、わたしたちは音楽の意味に向き合っているのです。

さて、Jonathan Krispの本作。
目立ちにくいですが、稀にみる傑作だと思います。
大きなうねりのレベルではわかりやすいポップ。
小さなディテールは、カオスといってもいいほど、前衛で、突拍子もなく、面白い。切った張ったのブレイクビーツの流れと位置づけられるかもしれませんが、枠にはめ込むのをためらうほど、多面性と深さを持ったサウンドです。

もう少し説明するとすれば、小刻みに弾けるミディアムテンポのビートに乗せて、大きな間隔でシンプルでポップな旋律が流れていく。その合間に、レトロ・エレクトリックな花火や、60sインストポップス風のストリングスや、気まぐれなフリースタイル・ピアノや、シャギーなギターリフや、鉄琴のシャワーや、ハープのカーテンや、パンピング・ベースの徘徊が、所狭しと散らばっている。どの曲も、ハッとする発見と、ニヤリとするアイデアに満ち、知的な刺激としての満足度は申し分ない。

不思議なのは、これだけごちゃごちゃしていながら、とても心地よく、隙間さえ感じるほどリラックスした気分に包まれていくことです。

秘密はこだわりぬかれた基準音にあります。
基調を決めるメロディを奏でる音は、深い響きを持ち、特定の楽器らしさを微妙に消し去り、存在感だけを余韻として聞き手に感じさせるよう、細心の工夫が施されている。バックがそれだけ騒がしくとも、この基準音は聴覚の中心に陣取り、聞き手の感覚をそこに集中させる。

そう、まるで水琴窟の跳ねる音。
基準音に集中すればするほど、まわりの音は反響音として、あるいは環境音として、意識の彼方ににじみ消えていく。主題とにじみが聴覚のキャンバスをバランスよく覆っていく中で、徐々に浮かび上がってくる印象としての新しい体感。それが、水琴窟が、そしてJonathan Krispが作り出す音楽です。

地中に埋めたCDプレーヤー。
土に耳を当てて、かすかに届く印象を鑑賞する。
本作のもっとも贅沢で、正しい鑑賞法かもしれません。


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