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The Opposition - Blue Alice Blue [Artist M-O]

思い出が染み込みすぎている作品です。
女の子がカーデガンに腕をうずめて泣いているジャケットに惹かれてこの作品を手に入れたころ、フランスから研修生が来ていました。まだ大学生。2ヶ月ほど日本に来て、企業の中で働く、今でいうインターンのようなもの。名前をステファンという。

筆者のいた工場で作業服を着て、実験とか、製造とかを体験した。

背が高く、堀の深い顔はとても印象的で、あっという間に人気者になった。筆者が面倒見係をやっていて、どこへ行くにもついていったのですが、彼のモテぶりはすごかった。新幹線に乗ると、いつの間にかとなりに女の人が座ってきて話し込んでいる。クラブにいくとあっというまに囲まれる。温泉旅館に行ったときですら、湯上りでベンチに腰掛けていると、OLさんのグループに声をかけられた。

どちらかというとシャイで、喜ぶというより、戸惑いと恥ずかしさに覆われていた。何しろ会話になっていないのですから。ほとんどの女の子は英語もフランス語もしゃべれず、ひたすら日本語で話しかける。ステファンはぜんぜん日本語はわからないのに、必死に何かを聞き取ろうとしている。筆者が通訳なのですが、あまりに他愛がなくて、赤面ものの会話に、途中で訳すのがバカバカしくなって、「あとは勝手にやってくれ」と投げてしまう。

一緒に移動する車の中で聞く音楽で、退屈するので貸してあげたCDの中で、この作品が一番二人のお気に入りでした。繰り返し繰り返し聞いた。毎日の工場から寮までの送り迎えのときも、夏休みに一緒に京都までドライブしたときも、寮の部屋でビールを飲みながらScrabbleをやるときも。

アコースティック・ポップ・ロックの静かだけれども、温まるサウンド。
メランコリックな音の結晶が、キラキラと光の中で輝く感じ。
Trash Can SinatrasやTravisに通じる系譜の根っこにある、隠れた名作。
時にエレクトロビートをはさむあたりも、かなり時代を先駆けていた気がする。

でもそれよりあの2ヶ月に密着している音。

音楽が、個人的な記憶や印象と強烈に結びつくのは、その作品が持つ特質のひとつであり、音楽の不思議でもある。からっぽの器のように、すっぽりとわたしたちの「残しておきたいもの」を受け止めてくれる。誰にでも経験のある、普通のことです。

ステファンはフランスに残してきた彼女がいて、いつも恋しそうにしていた。あるとき、仕事から遅く戻って駐車場を歩いていると、先に帰っていた彼が部屋の窓から首を出して筆者を呼び止めた。「誰も僕のいうことを理解していない」。

思えば、言葉の通じない、はるか日本の片田舎。四畳半ひと間の中で、会話する相手も、理解できるテレビ番組もなく過ごす毎日。彼の目には、どんよりと涙が溜まっていた。部屋の明かりの中からは、The Oppositionが聞こえてきた。

当時は、筆者も恋愛騒動の真っ只中にいて、命を削るような毎日を送っていた。
いよいよステファンがフランスに戻ることになった土曜日の前の晩。彼を朝見送るつもりでいたのに、どうしても東京まで行って、大事な話とかをしなくちゃいけなくなった。便箋にさらさらっと別れの言葉を書いて、彼の部屋のドアにセロテープで貼り付けた。あまり時間もかけず、たいそうなことは書かなかった。自分の人生の岐路と重なったあわただしさの中、ひとり夜の高速を東京に向かって走った。

ずっとそうしてきたように、何回も何回もBlue Alice Blueを聞きながら。


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