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Radiohead - In Rainbows [Artist P-R]

新しい時代に向けた一歩は、やはりこのバンドが踏み出したのでした。
当初、新作には「値段」が存在せず、消費者が自由に値付けしてダウンロードできるようにした。タダならタダでもよい。賛否両論の物議をかもしたRadioheadの決断は何を意味するのか。

長いポピュラーミュージックの歴史で確立されたシステム、それはミュージシャンと聞き手の間の金銭契約によって成り立つものです。両者の関係は、ほぼすべて、金銭契約のもとにしか存在しない。レコードやCDという媒体に対してわたしたちはお金を払い、コンサート会場にお金を払って入場する。1曲あたりの単価が定められたメニューにしたがって音楽をダウンロードする。

ミュージシャンに触れるためには、必ずお金が必要なのです。
お金を払う側ともらう側。
両者の間には明快な区分があるわけです。

Radioheadはこの根本的な関係性に一石を投じた。
単に音楽業界のシステムに対して疑問を投げかけたのではなく、ミュージシャンと聞き手の関係のあり方そのものに関心を寄せているのです。

インターネットによる急速な情報変革がもたらしたものは、送り手と受け手の立場のあいまい化と、マスからパーソナルレベルへと移行した解析不能の複雑なやりとりです。もはや大きなくくりでの「こっちからあっち」といった関係性は存在しない。すべては混沌としている。

ミュージシャンと聞き手にしても然りで、音楽を「作って発信すること」と、音楽を「受け取って鑑賞すること」があいまいになってきている。

音楽を「集めて紹介すること」や、「ばらばらにして再構築すること」や、「共有することで繋がること」なども、広い意味でポピュラーミュージックの活動となっている。もはや主役はミュージシャンではなく、誰もが主役で、誰もが鑑賞者。音楽という現象に「参加していること」へと移行している。アイデンティティとしてのミュージシャンは崩壊しつつあるのです。

「いくらでもいいよ」
とRadioheadが新作を解放するとき、そこに従来型のミュージシャンと聞き手の関係性は存在しない。習慣でお金を払う人、ラッキーとタダでダウンロードする人、サイトにリンクを張る人、情報を交換し合う人々。In Rainbowsの周りに、把握不能のコミュニティが突如として生まれる。Radioheadは、その混沌とした新しいコミュニティの中に自らをゆだねてしまったのです。

『新しいミュージック・アーティストのあり方』
では解放された新しい双方向コミュニティの中で、ミュージシャンはどうやって生計を立て、生活していけばいいのか。いくつも可能性はあるのです。

・メディア化
コミュニティを形成できる力をメディアとして活用する方法。例えばRadiohead.comは、Radioheadの音楽を中心とした価値観と世界観で彩られたひとつのハブであり、「Radiohead」でセグメント化できる一大マーケット・セグメントです。そこに集うRadioheaderたち同士の営みはすべて経済的な可能性を秘める。Radioheaderをターゲットにした商品が広告され、In Rainbowsに触発されたネット小説が出版される。Radiohead銀行が設立され、先鋭的なアート事業に低利で融資される。Radioheadマーケットで生み出される経済価値で、Radioheadは生計を立てていくことになる。

・パトロン化
お金をもらうのは何も消費者からでなくてもよい。これだけ流通網が発展した社会にあっては、レコード会社だけに頼る必要はない。例えばStarbucksと提携してIn Rainbows Cafeを展開する。Radioheadが提供する音楽は、彼らが理想とする空間の中でしか聞けず、彼らとStarbucksがこだわるある街のある場所でのみ「体感」できる。In Rainbows Loungeはロンドンとニューヨークなどのエッジーなクラブとしてメッセージを発信しつづける。Virgin Airlineの音響をすべてRadioheadが担当し、キャビンの環境音から、配信プログラムのセレクションまでをRadioheadワールドとして提供する。かつてBrian EnoがWindowsの起動音を「作曲」したように、ここではもはや従来型の「曲」という概念は崩壊し、Radioheadは、音響を含めた五感体験までを設計できるアーティスト/ビジネスマンへと進化する。

このように、アーティストは自らと社会との関係性を再認識し、新しい表現者としてのスキルを獲得することで、いかようにも成功することができるのです。

さて、そんな壮大な世界への序幕となるIn Rainbowsは、いったいどんな作品なのか。

送り手と受け手のあいまいな関係を示唆するように、Radioheadの打ち出す「個」が薄まり、どの方向に音が向かっているのかがわからない。これは聞いているのか、聞かされているのか、聞いていないのか。音楽と向き合う姿勢そのものを問うように、押したり引いたり、近づいたり遠のいたりする。

いかようにも聞けて、
いかようにも料理できて、
いかようにも編集できる。

ボヤっとしたまま境界線も定まらずに浮遊する In Rainbowsは、新しいコミュニティの中で産声を上げた。この作品がどのような意味を持つことになるのか、誰も決めることはできない。すべては新しいコミュニティの中で、発展し、進化し、変化していくのです。おそらく、ひとつの評価に収束していくことはないはずです。

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そしてこのブログも、大きな方向転換をするのでした。
従来の一アーティスト一作品の原則を放棄し、重要性、感受性、同時代性などの観点から自由にトピックスを選び、レビューでもエッセイでもない、よりあいまいで非指向的な媒体をめざす。

そう、ちょうどIn Rainbowsのように。


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walrus

いつも楽しく読ませていただいてます。
「In Rainbows」は、まだ聴いてませんが、
松本人志も同じような試みをしていましたよね。

それにしても毎日更新というのは、すごいですね!
僕も目指そうとしたんですが、とてもじゃないけど無理でした…
方向転換されるということで、また楽しみにしています。
by walrus (2008-01-20 00:03) 

simple-is-best

ありがとうございます、楽しみに待ってました!

本作品が、ミュージシャンが「音楽」という商業システムからスケープゴートする先鞭をつけたことは確かですよね。個人を単位とした新たなシステムが出来上がるとしたら、恐らく前者だと思いました(電車男のような事例を考えれば)。

>どの方向に音が向かっているのかがわからない

不思議ですよね、感情で捉えられないというか。。
既聴感はあるけれど、でも聴いたこともない。。
本当に人間が作ったものなのかと思うときがあります。

これからも楽しみにしています!!!
by simple-is-best (2008-01-20 00:44) 

kazuya

こんにちは、はじめまして。
kazuyaといいます、。"The Vera Violets"で検索してこのブログを見つけました。
過去の記事も読ませてもらったら、すごいレビュー!!感心することばかりです!(知らないバンドもたくさんありました・・・)。
Radiohead、盤としてのリリースはインディ・レーベル、バンドとリスナー間の関係をインターネット媒体を介したにしても直接の繋がりを作ったことは元を帰せばごく普遍的なことかもしれないですが、現在の商業環境を考えればすごく先鋭的だと僕も思いました。
ただ、Radioheadがビジネスマン化、商業展開してしまうというのはちょっと悲しいです。出来ればRadioheadには音楽を、彼らの社会への主張を商業先行のビジネスにしてほしくないとは思いました・・・。

まだ、色々と勉強になるのでまたお邪魔します!
by kazuya (2008-01-20 18:05) 

ezsin

walrusさん、ありがとうございます。松本人志もお客さんとの関係に非常に意識的な人ですよね。そういう「感度」が高くないと、これからの時代は生き残っていけ以内のでしょうね。

方向転換というほどは変わらないと思います(苦笑)。
これからも宜しくお願いします!
by ezsin (2008-01-20 22:18) 

ezsin

simple-is-bestさん、ようやくIn Rainbows書けました!
時間かかってすいませんでした(笑)。
おっしゃるように人間とは思えない神がかり的なオーラを感じますよね。これからどんなふうになっていくのか、まったく想像できない。わくわくしますよね。
by ezsin (2008-01-20 22:22) 

ezsin

kazuyaさん、ご訪問&コメントありがとうございます!
そうですね。Radioheadは頭が良くて、何でもできてしまうので、新しいパラダイムでも大成功することはできるのでしょうが、本当にそれを目指すべきなのかは別の問題かもしれません。

アーティストしては、どうしても最後まで「個」のこだわりがあるはずで、商業主義との折り合いは、永遠のテーマなのかもしれません。初期Creepのころにあったナイーブで、痛々しい感覚がふと頭をよぎったりします。
by ezsin (2008-01-20 22:27) 

私は、CD買いました。今は、ナップスターで色々楽しんで聴いていますが、自分にとって必要度の高いものは、やはりCD買います。古いかもしれないですが、どうしてもパッケージから逃れられません~

Radioheadのことは、やっぱりいい!とかやっぱりすごいかっこいい!とかしか書けません、私の頭では~まだまだ、聴き込み中です。
by (2008-01-21 01:21) 

ezsin

ありそんさん、こんにちは。
そうですね!パッケージは作品の一部ですよね。もっとアーティストが「もの」としての作品に思い入れを持てば、がんばっていけるのかもしれません。

本当にRadioheadは語れません(笑)。
今回の記事も、表層をなぞっているだけなのかもしれない。
聴き込んで聴き込んで、知らず知らずのうちに血となり肉となっていくのかもしれませんね。
by ezsin (2008-01-21 08:38) 

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