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Chicane - The Place You Can't Remember, The Place You Can't Forget [Artist A-C]

定期的に届けられるChicaneからの音の便りは人生の清涼剤。
今でもEDMのフェスなどとは距離を置くローキーなスタンスは、デビュー当時から変わらない。作品はむしろ原典といえるほどにもかかわらず、透き通ったピュアな印象を保ち続けているのは、それゆえ。耳あたりが優しいだけでなく、品のよさを兼ね備える。かつてはSigur Rosをカバー、ここではLambをと、粋なセンスもうれしい。

ずっと昔のこと、アメリカに留学しているときに、日本を紹介するナイトイベントを日本人学生たちで企画した。書をやったり、合気道をやったり、すしをふるまったり、発売されたばかりのプレステを開放したり。そのとき作ったパワーポイントのスライドショーに合わせる音楽として、Chicaneを選んだ。オープニングにこそ吉田兄弟の三味線を使ったりしたが、ボディのところにはめてみたLeaving Townという曲があまりにはまりすぎて、他が考えられなくなった。日本じゃないけどまあいいや。

世界中から学生が来ている学科だったこともあり、ちょっとしたグローバルイベントになり、副学長を含めて200人くらい集まったと思う。手前味噌になるがイベントはとても好評で、スライドショーも終わるとすぐに「いまの曲なに?」と何人も聞いてきた。

ぜんぜん日本じゃないんだけど、Chicaneっていうんだ、とってもいいでしょ。
エモーションはユニバーサルで、ミュージックはボーダーレスなのだ。

Chicaneの楽曲はスタジアムで大衆を先導するようなアンセムではないかもしれない。
むしろ控えめで目立たない。
それでも間違いなく聞き手を照らしてくれる。
ヘッドライナーはアーティストではない、聞き手であるアナタなのだ。

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Courtney Barnett - Tell Me How You Really Feel [Artist A-C]

低音うなるオープナーからホロリ染み入るクローザーまで圧巻。
前半のストレートなナンバーでは気持ちよすぎるサイクルでギターがまわり、
中盤のやや屈折したナンバーも、はずれ具合が完璧に心地よい。
トラッドに根ざしつつも、グランジから新旧ニューヨーク系まで自然と取り込んでいる。
今の世代にとっては、個々に学習して獲得するというより、最初から渾然一体と周りにあるのだろう。
大事なのは何を選択するかではなく、選択をする自分に最初から何が備わっているかだ。
学習したり上達したり演出したりでは獲得し得ない、感性基準。
誰をも感服させるそのゆるぎない魅力に惚れ惚れする。

いまやクリエイティヴ活動に国境はないが、メインストリームのイギリス・アメリカではないオーストラリアからこういう才能が現れるのはとてもいいことだ。多様性・寛容性の拡大とともに、シーンそのものも芯から揺さぶってほしいと思う(no pun intended)。

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Harold Budd - Avalon Sutra [Artist A-C]

弦楽器や吹奏楽器などをフィーチャーしながらも決してクラシカルではない不思議なノマド感をもった音楽。
伝統楽器が持つ深みのある響きが、カラダの細かい隙間にまで浸透していく。
情感をたたえつつも華美にならず、どちらかというとニュートラルなトーンで統一されている。
タイトルにあるように「経典」、すなわち導きを与えつつもそれ自身は理性的な存在であるような。

リリース当時は「これがラストアルバム」と銘打たれていて、そのことに衝撃と動揺が隠せず、意図されていたであろう精神状態では必ずしも聞けなかった。

ありがたいことにBudd氏はその後も作品を作り続けてくれて、かつての胸騒ぎは収まった。
さらに年輪を重ねる中で、ようやく無の心境で経典に向かえるようになった。

そうか、そういうことだったのか。
これがラスト、明日ですべてがなくなるとしても、平穏でいられること。
そういう境地で演者と聴者があいまみえる音楽だったのだ。

70分にわたるAs Long As I Can Hold My Breathが恐るべき深遠で、一度はまると二度と戻ってこれない。

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Beach House - 7 [Artist A-C]

全体としては丸みを帯びた「夢心地」サウンドなのだが、それだけではない力強さというか、迫真性のようなものがある。「ドリーミー」といってしまえば何でもゆるされる甘えのようなものを払拭しているからだろう。

それはもう、抗しがたい誘惑をもってして一瞬のうちに聞き手を引きずり込んでしまう魔力を湛えながらも、引きずり込んだあとも聞き手の魂と対峙しようとせんばかりの迫力に満ちている。

自らの意思で死を選ぶことが改めて注目を浴びている。
最近も104歳の学者がスイスで死を選んだことが報道された。
一定の条件の下で安楽死が認められている国もある。

その是非を軽々しく論じるべきではないが、ひとついえることは、
「生きていることはいいことだ」
「何があっても生きていることは肯定されるべきだ」
というゆるぎないはずの不文律がほころび始めているということだ。

死という神聖で永遠に理解不能な領域を意識の外に位置づけ、「生」の領域のみで人生や意思の枠組みを規定することから、死をも含めて自らの領域としようとする流れは、進化というより現代人にとってはそれなくしてはやっていけない切迫した必要性から生まれているのであろう。

同じように、夢は現実ではなく、全てははかなく逃避でしかないという考えも、そろそろ私たちは改めるべきなのだろう。夢の中から覚醒を促すべくBeach Houseサウンドは響く。

104歳の学者は、死に際にベートーベンの第九をかけていたそうだ。
ベートーベンは決してこんな形の「歓喜」を想定していなかっただろう。

Beach Houseはそんなことはない。
薬剤が注入され、徐々に薄れゆく意識に「7」はぴたりと添う。
むしろ「7」はそういった聞かれ方/聞き手を想定して作られたといってもいいほどだ。
究極の夢心地の中で彼らはあなたに歌いかける。
レクイエムでもグロリアでもなく、あなたと真剣に対話すべくそこに立ち現れ、新たな生の世界へあなたと共に歩んでくれる。

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Daniel Avery - Song For Alpha [Artist A-C]

抑制の効いた静かなパルスビートの上を中庸的なメロディラインが端正に流れていく。ときおり差し込むノイズややわらかなロングトーンが情緒の陰影を付けていく。
脳内に直接作用するので、クラブのような「場所」を必要としない。
だからといってカラダが動かないわけではない。
デジタル化された神経剤が聴覚路を経由し、アタマの中のネットワークを緩やかに揺らす感じ。
誰ともつながっていないようで、確実に現実社会との接点を補強し、アイデンティティを強化する。

たとえば朝の通勤列車。
不条理に極小空間に押し込まれ、息を殺して空(くう)を見つめながら、意識もカラダもこの感覚の中に埋没させていく。

たとえば天井の高いカフェの隅。
都心ど真ん中。オフィスを抜け出し、喧騒を抜け出す。
仕事をやるようなやらないような、思索にふけるような無になるような。
スマホの情報ストリームに身を任せるような放り出すような。
周りの音は遮断しつつ、ざわめきとして保ちつつ。

押しの強いサウンドは必要ない。
アンビエント然とした雰囲気もむしろあつかましい。

もとめているのは
ここちよい殺伐。
殺伐としたここちよさ。

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Big Thief - Masterpiece [Artist A-C]

稀有なバンドには不思議と生命体の命が宿る。
個々のメンバーはそれぞれのパートを担い、人為的な営みとして1つのバンドサウンドが構築されていくのだけれども、あるときその音の中にアイデンティティが産み落とされる。

その命は徐々に成長し、構成メンバーでもコントロールできないものへと進化する。
良くも悪くも、メンバーだけでなく、ファンをもその配下に従属させていく。

Big Thiefは、
硬軟自由なフロントシンガー、
切れ味と情感を兼ね備えたギタリスト、
息を呑むほど高い完成度の楽曲、
とバンドとしての知性が際立っており、あっという間にバンドの生命体が宿っている。

もうすぐセカンドアルバムが出るというタイミングで、その瞬間を今か今かとドキドキしながら待つ。
それはきっとメンバーも同じなのではないかと思う。
このバンドはどんな成長を遂げるのだろう、このバンドのために自分たちの果たす役割は何なのだろう。その一部であることに誇りを持ちつつ、自分たちの意図以上に可能性を膨らませるこの生命体と、ワクワクしながら付き合っているに違いない。

どの曲も名曲過ぎ。
デビューアルバムからMasterpieceとはなかなかつけられないものの、そうとしか形容できない。
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Alvvays - Alvvays [Artist A-C]

うれしくて泣けてくるほど、これ以上ないほど、まんまのインディーバンド然。
こういうたたずまいをメジャー化する戦略としてあくどく用いることもできるけれども、バンドが持っている本質的なナイーブさは、そう簡単に作り出すことはできない。

Alvvaysが本物だと感じるのは、この痛々しいナイーブさがそれこそ痛々しいほどに伝わってしまうからだ。

しかしこういうデビュー時に持っている甘酸っぱい感覚は、はかない。
ちょっとでも大人になってしまうか、ひねくれてしまうか、少しでも「わかってしまう」と、それは消えてしまう。
下手をするとセカンドアルバムすらまでも持たなかったりする。

二度と同じように鳴らされることがないことが直観的にわかってしまう。
それほど奇跡的な均衡の上で本作は鳴っている。
これはもう、この瞬間に立ち会えていることを精一杯かみしめるしかない。
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Beck - Morning Phase [Artist A-C]

静かに深くからだに染み込んでいき、今までに感じたことのない平安をもたらす。
安らぎともちょっと違う、「平衡感」とでもいうべき静かな状態。

Beckがこの作品を作り、歌い、演奏する中で、感情を極力持ち込むまいとしていることが、この特別な状態を作り出している。彼が今回チャレンジしている音のフォーマットは、わかりやすいメロディライン、重層的なコーラス、クリアなサウンドに代表されるとても「陽」なもの。

明るい音はごく自然に感情にはたらきかけるがゆえに、作り手、聞き手の双方にハイな状態を作り出しやすい。送り手は楽曲にさまざまな思いを込め、受け手はそこにさらに自身の思いを重ねていく。スパイラル状に肥大化していく感情は、やがてパンとはじけていいようのない恥ずかしさに取って代わる。

この「ベタベタ」と「シラケ」にどっぷり漬かりきってしまった「カリフォルニアンサウンド(彼自身そう形容している)」の中に眠る、本来の音の形を蘇らせたい、というのがBeckの製作意図なのだろう。無感情だけれども、冷たくも感じないのは、真剣に音にだけ集中しているからだ。

彼の丁寧な取り組みによって現れてきた音を前にして、私たちはただ息を呑む。
「美しい」という感情に移行する直前の、「息を呑む」状態にずっととどまらせてくれる。それがMorning Phaseの新しさであり、すごさなのだ。
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Neneh Cherry - Blank Project [Artist A-C]

張り詰めた空気がビシビシ伝わってくる。
骨太のベースを基調に、最小限のパーカッションで構成された音は、何をも寄せ付けない存在感を醸しているが、Nenehの歌はそれをものともせずに場を支配してしまっている。調和している感じではないのに、対立している感じもしない。両者は不思議な両立感を持って音場を形成している。

この「声」という主体と、「音」という背景のコントラストが生み出す緊張感は、武術の雰囲気に似ている。まるで空手の型の演技を見ている・体感しているかのようだ。

カンフー映画のように実際に戦っている派手さがあるわけではない。
敵がいようといまいと、隙を与えずに個を守り、その場の空気をも変えてしまう見えない・見せない力。

革新性がその異質という表層のみでひとつの興味対象として消費されていく中、本当に意識や考え方を動かしていくのはこういう音楽なのだろうと思う。
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Bombay Bicycle Club - So Long, See You Tomorrow [Artist A-C]

音楽業界が厳しいといわれて久しい。
市場の大半を占める物理メディア(CD)の売上がここ数年で急激に減少、デジタル配信が取って代わるも、CD最盛期には遠く及ばない。ライブやイベントなどの収入も、増えてはいるものの全体に占める割合は10%前後のようだ。

アーティストにとっても、デジタル機器、インターネットの発展と普及で制作、発信、配信のコストが大幅に下がり、今までとは違う競争環境の中で活動を再定義していく必要に迫られている。

もっともレコード会社やラジオ局が牛耳る供給の仕組みと、そこをうまく利用して活動してきたアーティストとの関係だけで成り立つ業界の構造は、考えようによっては長く続きすぎたとも言える。

誰だって歌いたい歌を歌いたいし(著作権というものを気にせず)、聞きたい音楽を聞く方法はいくらでもあるし(ラジオ以外にも)、金銭的に換算される音楽の価値が一律同じ値段である必要もない(どんな曲でも150円?)。大衆音楽が抱えている、漠然としているけれどもいったん火がつくと何でもひっくり返してしまうエネルギーに、ようやく火がついたということなのかもしれない。変革は必然なのだ。

一方で、やっかいなのは業界の仕組みだけが問題ではないところだ。
エンタテインメントの多様化とそれらへのアクセスの容易さが飛躍的に向上し、音楽は他の選択肢との間で熾烈な競争にさらされるようになった。

個人的にも、ここ数年落ち着いて音楽を聞く時間がなかったのだが、今、片道1時間の車通勤をするようになって、ようやくアルバム一枚を聞けるようになった。そう、運転中はゲームも、メールも、メッセージも、動画も見ることができない。唯一音楽だけが選択できる環境なのだ。逆にそういう有利な環境でもない限り、なかなか音楽を選択してもらえなくなってきていると言える。

いま音楽が直面する一番の課題は、「スマホの10分」なのだと思う。
すべての人の手に行き渡りそうなスマートフォン。ほとんど24時間そばにい続ける存在になりつつあるデジタルデバイス。すべてが選択可能な、行動のメインハブになりつつある。

今日は何をしようか、何をしたら面白いだろうか、といった行動判断の起点だけでなく、朝の歯磨きのついで、通勤ホームの電車を待つ間、退屈な授業や打ち合わせの最中など、ちょっと空いた時間の穴埋めの際にも、つねにそこにいて選択を促してくる。すべてへタップひとつでいざなってくれる 。It's just a tap awayなのだ。

そのときに音楽を選択してもらえるか、あの曲を聞こう、あの音楽が聞きたい、と思ってもらえるか。そうでなければ、私たちはすぐにLINEに行ってしまい、YouTubeを見てしまい、ツイートし、配信された漫画を読んでしまうのだから。

では選択の決め手となるのは何だろうか。
キーワードでいえばStickiness。粘着性、捉えて離さない、という意味。
優れた漫画やゲームが持つ、いったんやり出すとやめられなくなるあの性質。やむなく中断しても、ちょっとでも時間が空くと続きをやらなくてはいられなくなる状態。次々関連動画を見てしまうのも、いったん始まるとスルーできなくなるメッセージも、スレッドをひたすら読み続けてしまうのも、すべてそこにStickinessが備わっているからだ。

このことに気づいている音楽アーティストはどれだけいるのだろう。
もっと多くの人に聞いてもらいたい、
もっとCDをデジタル配信を売りたい、
もっとライブに人が来てほしい。
そのことを実現するには、まずスマホの10分を勝ち取らないといけないのだ。
そしてスマホの10分を勝ち取るためには、Stickinessがなければ話にならないのだ。

とてもとても長い長い前置きになってしまったが、Bombay Bicycle ClubはStickyだ。いったん聞き出すとやめられない。空いた時間ができると、1曲聞きたい。もうちょっと時間があるともう1曲聞きたくなる。彼らの楽曲へのこだわり、メロディ、アレンジ、世界観のすべてがStickinessの獲得に費やされているかのようだ。それくらいの執拗さをもって一曲一曲の完成度を追求している。これをポップとかロックとか安易にカテゴライズするのは気が引ける。バンドというユニットから発することのできる、人の興味を引きずり込んで乗っ取ってしまうことのできる究極の「憑依サウンド」を、彼らは目指しているのだ。

これは皮肉でもなんでもないが、音楽のStickinessの獲得のためにもっとも大切なことは、ひたすら楽曲に没頭して、すばらしい音楽を作ることだ。アーティストとしては、これからは配信だ、ライブだ、ブランド管理だと環境変化の中でいろいろ考えなくてはいけないことがあるのだろうし、事実それは避けて通れないことでもある。しかしそんな中にあっても、一番シンプルな原点がいまだにもっとも大事なことなのだといえることは、とても幸せなことだと思う。
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